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(R18BL)バースディプレゼント 第5話
 店長の理不尽な物言いに、中原は腹が立つというよりは驚いた。
 穏便にやり過ごそうかとも思ったが、ここで下手に出ては、自分なりに誠意を尽くしている仕事や、信用してくれているお客様をも侮辱することになるのではないかと考え直す。
「それは……」
 誇りをかけた反論の為、きっと視線を上げた中原の頬に、いきなり何かが飛んできた。
 肌を拭った手の甲に唾液がべとりと付着し、とっさに後方を振り返った中原は、自分が庇っていたはずの子供の瞳に、激しい憎しみが燃えていることに動転した。
 不条理に凍りついた中原を見上げた少年の唇が、唾を吐きかけるための尖りから、残酷な嘲笑に変化する。
「あっ……」
 呆然とした中原の手から、顧客の注文品が払い落された。
「この餓鬼っ」
 更なる無法を働いた万引犯に激怒する警備員に、少年は床に散らばった食材を次々に投げつけた。
 烏骨鶏の卵が割れ、黒毛和牛の包みが破れる。
 高価な商品に斟酌してたたらを踏んだ巨漢の隙をついて、小さな影は出口に突進した。
 まんまと逃げおおせた万引犯を呪う店長の怒号が、無惨な有様になった事務所に空しく響いた。
 
 片付けを手伝った後、最初から揃え直した注文品を、なんとか顧客宅へ届けられたのは約束の時間ぎりぎりだった。
 息子の食事時間が狂うと困るとぼやく女実業家に中原は深く頭を下げ、家政婦を手伝ってキッチンに立った。
 柏木と共に過ごす内、知らずに身についてしまった調理の腕で夕食の支度を助け、これまた柏木オリジナルの肉料理を披露する頃には、女社長の険しい眉間も緩んできた。
 ほっとしながらも中原は、シャンデリアに照らされたダイニングテーブルにずらりと並べられた御馳走と、ごく当たり前の顔をしてその豪華な夕食をとっている女社長の息子を前に、奇妙な居心地の悪さを感じていた。
 小学校中学年らしい男の子は、事務所で殴られていた少年と同じ年頃に見えた。
 高級メゾンで特別に作ってもらったという自転車用ヘルメットを、無邪気に自慢する屈託の無さが、不快を帯びた感情を更にちりちりさせる。
 夕食後、すっかり機嫌を直したサロン経営者に、男性向けネイルの実験にと、見事でいてシックなネイルアートを十指に施して貰っても、中原の胸の曇りが晴れることはなかった。

「……珍しく僕より遅く帰宅したかと思ったら、今夜は君が僕を見ていないね」
「え……」
 顧客宅を辞した後、閉店直前のスーパーマーケットにもう一度挨拶に行き、外商部での事務処理まで済ませてから、ようやく辿り着けたベッドの中だった。
「仕事熱心なのは素晴しいことだし、食べて貰えなかった夕食は、少し味は落ちるけど明日の朝食に回せばいい。でもね……」
 抱きしめた中原の髪を優しく撫でながらも、柏木の口調には苛立ちが宿っていた。
「でも、君、何か僕に隠し事をしているだろう?」
「……は?」
 あまりに唐突な言い草に、中原は十分に大人のはずの恋人の顔をまじまじと凝視してしまった。
 仄かな寝室のライトに照らされた柏木の顔は、しかし真剣そのものだった。

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