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黎明のロマンス 第2話
 シャワーに向かう華奢な後ろ姿を、俺は指を咥えて見送った。
 大学入学と同時に家を出て住み始めたのは、城山さんのご両親が投資目的のために一棟買いしたマンションの一室だった。
 オーナーの家族ということで、部屋は当然最上階の高級物件。
 今いる城山さんの寝室の他に、大理石張りのカウンターキッチンを備えた20畳超えのLDKと、俺が使わせてもらっている8畳の洋室がある。
 一応家具も備えてあるけど、俺はもっぱら城山さんのベッドに潜り込んでいたので、そっちの部屋は殆ど使っていなかった。
 レポートも論文も城山さんの部屋で書いた。
 少しでも側にいたいこの気持ち、分かって貰えるかな?
え?
 じゃあ、一緒に暮らせたこの六年間は天国だったろうって?
 とんでもない。
 心配ばかりの日々だったんだよ。
 まず第一に、城山さんはますます綺麗になった。
 もともと美しい人だったけど、大人になっていく過程で、柔らかさの残っていた輪郭が削ぎ落とされ、凄みを帯びた男の色気を振りまくようになったのだ。
 こんな人が花のように笑ってごらんよ?
 甘い蜜に群がる虫の如く、城山さんの周りには目を欲望でぎらつかせた先輩・後輩・教授・行きつけの定食屋の親父にバイトのねえちゃんまで、老若男女が群がるようになったのだ。
 この6年間、城山さんの貞操の危機を数え上げたら、きりがない。
俺という、夜毎彼を眠らせる(城山さんは男に抱かれないとぐっすり眠れない。こんな淫乱な部分も俺は好きだ)存在を明らかにすれば騒音も少しは治まると思うのだが、社会人になるまでは恋人同士であることを伏せておきたいと城山さんは主張するのだ。
 これが第二の問題なんだ。
 俺の家族にはとっくに公認(繋がっている躯を見られた涙)だが、城山御殿と地元で呼ばれる豪奢な屋敷に住む城山さんの両親には、そう簡単にはいかないらしい。
 大きな総合病院の跡取りである一人息子が子供を持つことが叶わない同性婚じゃあ、確かに親の気持ちは治まらないだろうな。
 でも、俺たちの絆は絶対だ。
 卒業は間近だし、医師の国家試験だって必ず通ってやる。
 今は地元繋がりの居候という仮の姿だが、晴れて就職した暁には、白いベールを被せた城山さんとバージンロードを歩くぞ!
「鼻息が荒いぞ、本郷」
 いつの間にか戻ってきていた城山さんが、ベッドで悶える俺を呆れ顔で見下ろしていた。
 濡れた髪から零れたシャワーの滴が白いバスローブから覗く鎖骨に落ち、俺の歯形がまだ残る肌が、光量を落としたベッドサイドの明かりにぬめるように光っている。
 超絶に色っぽい艶姿に、下半身が沸騰した。
「城山さんっ!」
「……わっ」
 俺は情事の痕跡の残るシーツにしなやかな躯を押し倒し、無理矢理こじ開けた唇から舌を吸う。
「むが!」
 恋人の肌をまさぐりだした手が、口内に走った激痛に止まった。

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