また、春が来ようとしていた。
日中吹く風がふんわりと温かくなり、人々はコートを脱ぎ捨てて軽やかな色合いの衣服に身を包み、街を穏やかな表情で歩いている。
中原悠司の勤める百貨店の中も春色一色に染められ、花咲き乱れるディスプレイや、早くも店頭に並びだしたカラフルな夏物で華やいでいた。
中原は所属する外商部のオフィスで、黒い長めの前髪の下の大きな二重の目を書類に落とし、顧客名簿のチェックをしていた白い手をふと止めた。
二重線で消され、移動の判が押された名前をそっと指でなぞる。
柏木晃彦……。
今も、中原の心を占めるたった一人の人の名だった。
柏木と別れてから、早4ヶ月余りが過ぎようとしていた。
別れを決定付けたあの冬の日以来、中原の心の時計は凍り付いてしまって、ずっと冬を指したままになっている。
なるべく何も考えないようにして、あれからの日々を過ごしてきた。
赤石が気にかけてくれているようで、時々食事に誘ってくれたが、中原は頑なに断った。利用して傷つけた上、これ以上彼の好意に甘えることは、もう絶対に出来なかった。
義務のように味のしない食物を口に運び、会社で淡々と仕事をして、一人で部屋に帰ってただ眠る。
柏木と出会う前の生活に戻っただけなのに、何かが決定的に変わってしまい、周りの全てが色あせてしまっていた。
「いよいよ今週末だね。柏木様の結婚式」
中原の後を継いで、柏木の担当になった課長ののんきな声が響いた。
「出席者の数が多いから、引出物のミスがないか心配だよ。中原君、前任者のよしみで当日手伝ってくれないか」
中原はぎりぎりと胸を締め付ける痛みに耐え、やっとの思いで断りの言葉を口にした。
今までなるべく聞かないように聞かないようにしていたのに、一度耳に入ってしまった柏木の消息は、がんがんと音を立てて身体の中に木霊した。
中原は書類をとじると、よろりと席を立った。
どこかで心を平静に戻したかった。
高層階へのエレベーター乗り継ぎフロアに設けられたインドアガーデンは、植え替えの改装期間を迎えてひっそりとしていた。
降り注ぐ緑の中で、中原は深い溜息をついた。
ここへ来たのは失敗だったかもしれない。
今日は業者も休みだからここへ入り込んでしまえば一人になれて、落ち着きを取り戻せると思ったのだが、しんと静かな空間はかえって精神を研ぎ澄まし、払っても払っても湧いてくる柏木の思い出が中原を苦しめた。
大きな木の陰のベンチに座った身体を、中原は自分でぎゅっと抱き締めた。
柏木を恋しがって身体は毎夜疼き震えて泣いたが、自分の手で慰めることは柏木に対する冒涜のように思えて、中原は目を閉じて枕に顔を埋め、唇を噛み締めて朝が来るのをじっと待った。
だが今、思い出と共に柏木の手が抱いてくれているように感じて、中原は無意識に自分の身体を愛撫していた。
指が唇をなぞった後、首筋を伝いネクタイとシャツの間をぬって、胸の小さな芽に届いた。
親指と中指で挟み、人差し指で頂点を潰すように刺激する。
「……んっ」
ぞくぞくっと甘い痺れが湧いてきて、中原は身体を震わせた。
ネクタイを毟り取り大きくシャツを広げると、両手で大気中に曝された両方の乳首をつまんだ。
いつの間にか硬くしこったそこを捻り上げ、回す様に揉み上げると、
「はあっ……」
と、甘い吐息が唇から漏れ、じんじんとした痺れが指先にまで届いた。
脇腹を掌で撫で下ろして、きつくなった下衣をくつろげると、硬く熱く昂ぶり、いやらしく濡れて光った先端が姿を現した。
自分の浅ましさを見たくなくて、きつく目を閉じ、もう止められない手をそこに這わせた。
根元に指を回して軽く扱くと、待ち構えていたように嬉しげに立ち上がっていく。
敏感な括れの裏側を捏ね先端の孔を指で潰すように押して、中原は自分を責めた。
「……あうっ」
柏木の愛撫を身体が思い出し、悦びに全身がかっと火照った。
中原は小刻みに震える指を口に含んで濡らし、ひくひくと慄く自分の後孔に潜り込ませた。
温かく柔らかな内部を探ると前面の内壁の一点に少し盛り上がって丘になっているところがあり、そこを指で強く圧迫すると、強く甘い痺れが駆け巡る。
「……あ、……柏木さ、ん……、柏木さん……っ」
いつのまにか、泣きながら声をあげていた。
勝手に腰が動き、中の指を締め付けてくる。
内壁の凝りを指で摩擦しながら、もう一方の手で雄を激しく扱き上げた。
身体の奥深くから熱い塊が駆け抜けて、内腿と下腹部が痙攣する。
「はああっ……はあっ」
頭の中が真っ白になり、大きく口を開け全身を震わせて、中原は自分の手の中に精液を吐き出した。
弛緩した身体をぐったりとベンチに持たせかけると、自らが放った発情の証しが、手からとろりと溢れた。
とうとう柏木の思い出まで汚してしまった。
苦い思いが涙と一緒に溢れて落ちた。
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日中吹く風がふんわりと温かくなり、人々はコートを脱ぎ捨てて軽やかな色合いの衣服に身を包み、街を穏やかな表情で歩いている。
中原悠司の勤める百貨店の中も春色一色に染められ、花咲き乱れるディスプレイや、早くも店頭に並びだしたカラフルな夏物で華やいでいた。
中原は所属する外商部のオフィスで、黒い長めの前髪の下の大きな二重の目を書類に落とし、顧客名簿のチェックをしていた白い手をふと止めた。
二重線で消され、移動の判が押された名前をそっと指でなぞる。
柏木晃彦……。
今も、中原の心を占めるたった一人の人の名だった。
柏木と別れてから、早4ヶ月余りが過ぎようとしていた。
別れを決定付けたあの冬の日以来、中原の心の時計は凍り付いてしまって、ずっと冬を指したままになっている。
なるべく何も考えないようにして、あれからの日々を過ごしてきた。
赤石が気にかけてくれているようで、時々食事に誘ってくれたが、中原は頑なに断った。利用して傷つけた上、これ以上彼の好意に甘えることは、もう絶対に出来なかった。
義務のように味のしない食物を口に運び、会社で淡々と仕事をして、一人で部屋に帰ってただ眠る。
柏木と出会う前の生活に戻っただけなのに、何かが決定的に変わってしまい、周りの全てが色あせてしまっていた。
「いよいよ今週末だね。柏木様の結婚式」
中原の後を継いで、柏木の担当になった課長ののんきな声が響いた。
「出席者の数が多いから、引出物のミスがないか心配だよ。中原君、前任者のよしみで当日手伝ってくれないか」
中原はぎりぎりと胸を締め付ける痛みに耐え、やっとの思いで断りの言葉を口にした。
今までなるべく聞かないように聞かないようにしていたのに、一度耳に入ってしまった柏木の消息は、がんがんと音を立てて身体の中に木霊した。
中原は書類をとじると、よろりと席を立った。
どこかで心を平静に戻したかった。
高層階へのエレベーター乗り継ぎフロアに設けられたインドアガーデンは、植え替えの改装期間を迎えてひっそりとしていた。
降り注ぐ緑の中で、中原は深い溜息をついた。
ここへ来たのは失敗だったかもしれない。
今日は業者も休みだからここへ入り込んでしまえば一人になれて、落ち着きを取り戻せると思ったのだが、しんと静かな空間はかえって精神を研ぎ澄まし、払っても払っても湧いてくる柏木の思い出が中原を苦しめた。
大きな木の陰のベンチに座った身体を、中原は自分でぎゅっと抱き締めた。
柏木を恋しがって身体は毎夜疼き震えて泣いたが、自分の手で慰めることは柏木に対する冒涜のように思えて、中原は目を閉じて枕に顔を埋め、唇を噛み締めて朝が来るのをじっと待った。
だが今、思い出と共に柏木の手が抱いてくれているように感じて、中原は無意識に自分の身体を愛撫していた。
指が唇をなぞった後、首筋を伝いネクタイとシャツの間をぬって、胸の小さな芽に届いた。
親指と中指で挟み、人差し指で頂点を潰すように刺激する。
「……んっ」
ぞくぞくっと甘い痺れが湧いてきて、中原は身体を震わせた。
ネクタイを毟り取り大きくシャツを広げると、両手で大気中に曝された両方の乳首をつまんだ。
いつの間にか硬くしこったそこを捻り上げ、回す様に揉み上げると、
「はあっ……」
と、甘い吐息が唇から漏れ、じんじんとした痺れが指先にまで届いた。
脇腹を掌で撫で下ろして、きつくなった下衣をくつろげると、硬く熱く昂ぶり、いやらしく濡れて光った先端が姿を現した。
自分の浅ましさを見たくなくて、きつく目を閉じ、もう止められない手をそこに這わせた。
根元に指を回して軽く扱くと、待ち構えていたように嬉しげに立ち上がっていく。
敏感な括れの裏側を捏ね先端の孔を指で潰すように押して、中原は自分を責めた。
「……あうっ」
柏木の愛撫を身体が思い出し、悦びに全身がかっと火照った。
中原は小刻みに震える指を口に含んで濡らし、ひくひくと慄く自分の後孔に潜り込ませた。
温かく柔らかな内部を探ると前面の内壁の一点に少し盛り上がって丘になっているところがあり、そこを指で強く圧迫すると、強く甘い痺れが駆け巡る。
「……あ、……柏木さ、ん……、柏木さん……っ」
いつのまにか、泣きながら声をあげていた。
勝手に腰が動き、中の指を締め付けてくる。
内壁の凝りを指で摩擦しながら、もう一方の手で雄を激しく扱き上げた。
身体の奥深くから熱い塊が駆け抜けて、内腿と下腹部が痙攣する。
「はああっ……はあっ」
頭の中が真っ白になり、大きく口を開け全身を震わせて、中原は自分の手の中に精液を吐き出した。
弛緩した身体をぐったりとベンチに持たせかけると、自らが放った発情の証しが、手からとろりと溢れた。
とうとう柏木の思い出まで汚してしまった。
苦い思いが涙と一緒に溢れて落ちた。
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