部屋の規模を示すかのような長い空白が続く壁に、どっしりした観音開きのドアがそびえていた。
「ここまででいいよ」
静はカードキーを手に、背後の墨津を振り返って微笑んだ。
ここからは僕だけの仕事だ。
過去に溺れるのは昨夜が最後。
与えられた仕事をきちんとやり遂げよう。
カードリーダーに明るい緑色が点滅する。
蔓の浮き彫りが施されたドアバーを押し、光が溢れる室内へ一歩足を足を踏み出した途端、引き結んだ静の唇が解けた。
「え……?」
シャンデリアに照らされたリビングルームで、白いワンピース姿の美香が明るく笑っていた。
しかしその躯は、披露宴で見覚えた男性に抱きしめられ、今にも唇が触れそうなくらいに顔が寄せられていた。
「あら、花嫁のご登場だわ」
濃いマスカラに彩られた目だけを静に向けて言うと、美香は更に男にしなだれかかった。
呆然と立ちすくむ静の視界に、何故かバスローブ姿の義父が飛び込んでくる。
「随分と待たされたからな。今夜はたっぷり楽しむとしよう」
「私たちにも見学させてよ。名ばかりとはいえ、恋人を他人の妻にされた彼の気持ちも考えてあげて……」
この親子が話している内容が理解出来ない。
理解したくない。
「……っ」
素早く踵を返した静の手を、皺の浮き始めた手が戒める。
「寝室は向こうだよ、静……」
一代で一大リゾートグループを築き上げた男に、容赦なく躯を引き摺られた。
「いやっ……」
濃紅の絨毯に倒れ伏した静は、足首を掴まれながらも床に爪を立てた。
細かな織り目の毛足が逆立ち、生け贄の運ばれた道を示す。
「他のことなら、何でもします……っ、だから……だから……っ」
もう流すまいと誓った涙が頬を伝ってしまう。
広い寝室の中央に巨大なキングベッドが鎮座し、光量を落した照明が、敷きシーツだけに準備された処刑台を妖しく照らし出していた。
「……お願い、です……」
戒めた両手首を高く掲げられ、俯いて泣く静の顔を、佐治は愉快そうに覗きこんだ。
「初めは誰でも怖いものだが、大丈夫だ。きっと、すぐに良くなる。毎日抱いてあげよう。これ無しではいられなくなるくらい、朝も晩も可愛がってやる……」
「ひ……っ」
腰に押しつけられた剥き出しの熱い肉の昂ぶりに、静は恐慌に陥った。
無我夢中で佐治の腕を振り払い、脱兎の如く出口を目指す。
げらげら笑っている美香の前を走り抜け、外との境目に到達した途端、ゆっくりとドアバーが下がった。
「これが、あなたのお仕事なんですよ、静様」
底冷えする声できっぱりと宣言する墨津に、ぐいっと部屋へ押し戻された。
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「ここまででいいよ」
静はカードキーを手に、背後の墨津を振り返って微笑んだ。
ここからは僕だけの仕事だ。
過去に溺れるのは昨夜が最後。
与えられた仕事をきちんとやり遂げよう。
カードリーダーに明るい緑色が点滅する。
蔓の浮き彫りが施されたドアバーを押し、光が溢れる室内へ一歩足を足を踏み出した途端、引き結んだ静の唇が解けた。
「え……?」
シャンデリアに照らされたリビングルームで、白いワンピース姿の美香が明るく笑っていた。
しかしその躯は、披露宴で見覚えた男性に抱きしめられ、今にも唇が触れそうなくらいに顔が寄せられていた。
「あら、花嫁のご登場だわ」
濃いマスカラに彩られた目だけを静に向けて言うと、美香は更に男にしなだれかかった。
呆然と立ちすくむ静の視界に、何故かバスローブ姿の義父が飛び込んでくる。
「随分と待たされたからな。今夜はたっぷり楽しむとしよう」
「私たちにも見学させてよ。名ばかりとはいえ、恋人を他人の妻にされた彼の気持ちも考えてあげて……」
この親子が話している内容が理解出来ない。
理解したくない。
「……っ」
素早く踵を返した静の手を、皺の浮き始めた手が戒める。
「寝室は向こうだよ、静……」
一代で一大リゾートグループを築き上げた男に、容赦なく躯を引き摺られた。
「いやっ……」
濃紅の絨毯に倒れ伏した静は、足首を掴まれながらも床に爪を立てた。
細かな織り目の毛足が逆立ち、生け贄の運ばれた道を示す。
「他のことなら、何でもします……っ、だから……だから……っ」
もう流すまいと誓った涙が頬を伝ってしまう。
広い寝室の中央に巨大なキングベッドが鎮座し、光量を落した照明が、敷きシーツだけに準備された処刑台を妖しく照らし出していた。
「……お願い、です……」
戒めた両手首を高く掲げられ、俯いて泣く静の顔を、佐治は愉快そうに覗きこんだ。
「初めは誰でも怖いものだが、大丈夫だ。きっと、すぐに良くなる。毎日抱いてあげよう。これ無しではいられなくなるくらい、朝も晩も可愛がってやる……」
「ひ……っ」
腰に押しつけられた剥き出しの熱い肉の昂ぶりに、静は恐慌に陥った。
無我夢中で佐治の腕を振り払い、脱兎の如く出口を目指す。
げらげら笑っている美香の前を走り抜け、外との境目に到達した途端、ゆっくりとドアバーが下がった。
「これが、あなたのお仕事なんですよ、静様」
底冷えする声できっぱりと宣言する墨津に、ぐいっと部屋へ押し戻された。
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