結局一睡も出来ぬまま、静はきらびやかな雛壇に座っていた。
朝日が差すか差さないうちに高らかにドアをノックする音にせき立てられ、自室に別れも告げられず、大荷物が運び込まれた控えの間へと移動させられた。
いつもは取り澄ました使用人達も今日の大事には頬を紅潮させていて、静の周りを忙しなく動き回っている。
沢山の視線に晒されたまま寝衣を剥ぎ取られ、肌を清められて直衣を着せられた。
髪をまとめられ、立烏帽子を被せられてすぐに祖父に挨拶に行き、祖先を祭ってある邸内の廟に参ってから、神社に移動する。
披露宴の行われるホテルにも分社はあったが、秋園家先祖代々から繋がりのある本社での式は譲れなかったようで、荘厳な十二単衣に身を包んだ美香の顔には疲れが滲んでいた。
妻にと定められた人の気持ちを少しでも和らげたくて、そっと微笑みかけたが、気がつかれなかったのか全く無視されてしまった。
その後は式次第に押され、事務的に神事をこなして、また慌ただしく移動する。
フロックコートに着替えさせられ、ウエディングドレス姿の新婦と共に、果てしなく続く招待客を迎える頃には既に疲労が蓄積していた。
何度目かのお色直しで深紅のドレス姿に変わった妻を横目で伺うと、ツンと顎を上げて正面を向いている。
古い風習の式にいらだつようだった表情が和み、主役の立場を存分に楽しんでいるように見えた。
友人が集まっているらしい賑やかなテーブルへ、時折大輪の薔薇が咲くような笑みを向けている。
よかった……。
静は心の内で安堵の溜息をついた。
美香さんの意に沿わない結びつきかもしれないと心配したこともあったけど、披露宴は楽しんでいてくれているようだ。
宴が進むうちに和やかな雰囲気になった会場で、正面に押しかけた新婦の友人達が賑やかに騒ぎだした。
主張の強いデザインの服を軽々と着こなした人々が雛壇を囲み、突出した長身の片耳に黒いピアスをした男に肩を抱かれて美香が笑っている。
あでやかに写真撮影に応じている花嫁が眩しくて、静は配膳されたままの形を留めているフルコースに視線を逸らした。
勢いよく上昇するエレベーターからは、すっかり夜更けた街をよく見えた。
「何とか一段落しましたね……」
全ての日程をこなそうと張っていた気持ちが、墨津の言葉でふっと解ける。
最上階についたガラスの箱から、ふらつく足を廊下までふんだんに敷き詰められた豪奢な絨毯に下ろして、静は墨津に振り返った。
縁組みが決まってから今日まで、大柄な体躯に似合わない繊細さで常にさりげなく自分を助けてくれた男に深く頭を下げる。
「ありがとうございました。無事に式を終えられたのは墨津さんのお力添えのおかげです」
玲哉が墨津を大事にしている気持ちが少しだけ分かったような気がした。
この男は言葉こそきついが、頼れる芯が内にある。
不意に墨津のイメージが、苦しさと甘さの入り交じった思い出の人と被り、静は慌てて頭を上げた。
昨晩の痴態までもが脳裏に蘇ってきそうで、未練を振り払いように足早に歩きだす。
今夜の宿である最上階のインペリアルスイートには、もう美香さんが着いているはずだ。
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朝日が差すか差さないうちに高らかにドアをノックする音にせき立てられ、自室に別れも告げられず、大荷物が運び込まれた控えの間へと移動させられた。
いつもは取り澄ました使用人達も今日の大事には頬を紅潮させていて、静の周りを忙しなく動き回っている。
沢山の視線に晒されたまま寝衣を剥ぎ取られ、肌を清められて直衣を着せられた。
髪をまとめられ、立烏帽子を被せられてすぐに祖父に挨拶に行き、祖先を祭ってある邸内の廟に参ってから、神社に移動する。
披露宴の行われるホテルにも分社はあったが、秋園家先祖代々から繋がりのある本社での式は譲れなかったようで、荘厳な十二単衣に身を包んだ美香の顔には疲れが滲んでいた。
妻にと定められた人の気持ちを少しでも和らげたくて、そっと微笑みかけたが、気がつかれなかったのか全く無視されてしまった。
その後は式次第に押され、事務的に神事をこなして、また慌ただしく移動する。
フロックコートに着替えさせられ、ウエディングドレス姿の新婦と共に、果てしなく続く招待客を迎える頃には既に疲労が蓄積していた。
何度目かのお色直しで深紅のドレス姿に変わった妻を横目で伺うと、ツンと顎を上げて正面を向いている。
古い風習の式にいらだつようだった表情が和み、主役の立場を存分に楽しんでいるように見えた。
友人が集まっているらしい賑やかなテーブルへ、時折大輪の薔薇が咲くような笑みを向けている。
よかった……。
静は心の内で安堵の溜息をついた。
美香さんの意に沿わない結びつきかもしれないと心配したこともあったけど、披露宴は楽しんでいてくれているようだ。
宴が進むうちに和やかな雰囲気になった会場で、正面に押しかけた新婦の友人達が賑やかに騒ぎだした。
主張の強いデザインの服を軽々と着こなした人々が雛壇を囲み、突出した長身の片耳に黒いピアスをした男に肩を抱かれて美香が笑っている。
あでやかに写真撮影に応じている花嫁が眩しくて、静は配膳されたままの形を留めているフルコースに視線を逸らした。
勢いよく上昇するエレベーターからは、すっかり夜更けた街をよく見えた。
「何とか一段落しましたね……」
全ての日程をこなそうと張っていた気持ちが、墨津の言葉でふっと解ける。
最上階についたガラスの箱から、ふらつく足を廊下までふんだんに敷き詰められた豪奢な絨毯に下ろして、静は墨津に振り返った。
縁組みが決まってから今日まで、大柄な体躯に似合わない繊細さで常にさりげなく自分を助けてくれた男に深く頭を下げる。
「ありがとうございました。無事に式を終えられたのは墨津さんのお力添えのおかげです」
玲哉が墨津を大事にしている気持ちが少しだけ分かったような気がした。
この男は言葉こそきついが、頼れる芯が内にある。
不意に墨津のイメージが、苦しさと甘さの入り交じった思い出の人と被り、静は慌てて頭を上げた。
昨晩の痴態までもが脳裏に蘇ってきそうで、未練を振り払いように足早に歩きだす。
今夜の宿である最上階のインペリアルスイートには、もう美香さんが着いているはずだ。
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