うっすらと霞んだ山脈をのせた地平線が、ぐるりと周りを囲んでいる。
眼下に視線を移せば、街はまるで模型のようで、蟻のように動いている人影だけがそこが現実の光景であることを示していた。
僕にはここは高すぎて、怖い。
高層ビルの最上階にある外商顧客専用サロンからの眺望に、中原悠司は軽いめまいを覚えて色白の眉間に軽く皺を寄せ、しなやかな細身の身体を窓から離した。
今日のサロンは特別な顧客を招いての特選宝石展の会場になっており、高価な衣服に身を包んだ一目で裕福だと分かる人々が、それぞれの外商担当者を従えて品定めをしていた。
会場内に入った控えめなアナウンスの中に自分の名前を認めて、中原は黒髪を翻して受付へと急いだ。
部長と談笑している長身の男の姿が目に飛び込んでくる。
おそらくイタリア製であろう少しあくの強いスーツを均整のとれた身体で見事に着こなし、若干33歳にして起業に成功した者のオーラともいうべき圧倒的な存在感を放っているその男は、中原の担当顧客である柏木晃彦だった。
柏木は中原の姿を認めると、形のいい唇の端を少し上げて彼だけに分かる笑みを送ってきた。
かっと身体の奥が熱くなるのを感じる。
この男の指を、舌を、そして男根を中原は身体で知り尽くしていた。
「わざわざお越しいただいてありがとうございます」
精一杯の平静を装って、中原は奥の窓際へと柏木を案内した。
高層ビルを支える太いコンクリートの柱が大きくフロアに張り出していて、その間がちょっとした個室のようなスペースになっており、顧客用にイタリアンデザイナーのモダンな応接セットが設えてあった。
柏木は足を組んでゆったりとソファに腰掛けると、窓の外に目をやった。
「いい眺めだね。僕はこの眺めが好きだな。とても落ち着く」
一面の空をバックにして寛ぐ柏木の姿は、まるで一枚の絵の様にしっくりとおさまっていた。
柏木さんのように常に上を目指す人にはここは相応しい所だなと、中原は心の中で独白した。
こんな人が何故、僕なんかを相手にするんだろう。
いつもの疑問がふっと頭を擡げる。
身体は彼に抱かれることにすっかり馴染んでしまっていたが、心は未だに柏木のことをどう位置付ければいいのか、分からないまま戸惑っていた。
隣接するレストランから取り寄せたハーブティを飲みながら、柏木が不意に窓の外を覗き込んだ。
「あれ、中原君。あれ何だろうね」
「は?どこですか」
中原は慌てて外に目を向けたが、柏木が何を指しているのかよく分からない。
「ほら、あれだよ。あれ」
中原が窓にくっついて懸命に下を見ていると、覆い被さるように柏木が身体を寄せてきた。中原の上着の下に手がするりと滑り込む。
「か、柏木さん」
「静かに。他のお客さんに見つかったら、君が困るだろう」
優しげな声で耳元に囁きながら、自分の身体で中原をガラスに押し付けるように固定すると、柏木の手はどんどん奥まで入ってきて中原の身体を這いまわった。
胸の敏感な小さな粒をワイシャツ越しに爪で引っかくように刺激されながら、下腹部に伸ばされたもう一方の掌で前の膨らみを包まれて、やわやわと柔らかく揉み解される。
柏木に触れられている所からじわじわ甘い疼きが湧いてきて、中原の身体の中を駆け巡った。
「……はぁっ」
とうとう押さえ切れない熱い吐息が、口から漏れた。
「……こんな所で、……お願いですから、止めてください……」
「君がいけないんだよ。ここしばらく、全然うちに来てくれなかったじゃないか」
柏木の唇が中原の耳朶を甘く噛んだ。
確かに柏木は上顧客だが、他に担当しているお客様を蔑ろにする訳にはいかない。だが一番の問題は、柏木の自宅に納品なり催事の案内なりに行くと、その後必ず寝室に連れ込まれ、足腰が立たなくなるまで攻められて、下手をすると次の朝まで帰してもらえないということだった。外商部の休日は顧客の都合で不定期とはいえ、柏木の所へ行くときには予め次の日に休日を設定しておかないと、とても体がもたなかった。
中原はガラスに貼り付けにされたまま、止まることの無い柏木の手に優しく、時に激しく愛撫され続けた。
圧倒的な高さの空間に押し付けられ、身体の中の官能を揺らされて、このまま落下してしまうような感覚に襲われる。
「……止めて、ください……怖い」
快感と落下の恐怖に挟まれて、中原は息も絶え絶えに懇願した。
「今日は必ず、僕の家においで」
柏木がまるで命令を下すように告げる。
中原は懸命にこくこくと頷いた。
切れ長の目をきらりと光らせると、柏木はようやく嬲っていた手を引いた。
すっかり熱くなってしまった身体はずるずると床に崩れ落ち、中原はガラスに頭を持たせかけるようにして荒くなった息を必死に整えた。
「さあ、少し展示物でも見てくるかな」
柏木は満足そうに笑った。
「中原君、案内してよ」
涼しい声が頭の上から降ってきた。
サロンの中央にはガラスケースが立体的にレイアウトされ、明るい照明が華麗な宝石や貴金属をますます華麗に光らせていた。
「今回は良質な物が多く揃っております」
宝飾担当の社員がすぐにカウンターの向こうから出てきて、トレーを持って柏木に付き従う。
柏木は、ざっとケースの中を見て、いくつかの裸石をピックアップした。
「……ちょっと、それも出して」
柏木は急に足を止め、ケースから大ぶりのネックレスを出させた。
蕩けるような黄金色が光を通している。琥珀だ。
宝飾担当者の説明を聞きながら、柏木はネックレスを手にとり、中の化石を透かすように照明にかざした。
「これ、気に入ったよ。大事な人にあげたいから、ラッピングして早めに自宅に届けて」
二人の後ろに控えていた中原は、先ほどの愛撫の余韻でまだ熱をもっていた身体が、頭のてっぺんからすうっと冷たくなっていくのを感じた。
大小様々な大きさの球体を組み合わせたネックレスはとてもデコラティブなデザインで、これを付けこなせるということは、よほど華やかな女性なんだろう。
きっと、柏木さんの隣に立つのに相応しい人だ。
何だか、足元がふらつく。
その後、場所をかえて商談に移ったが、柏木と宝飾担当者の会話がとても遠くから聞こえてくるような気がした。耳には入ってくるのだが、何を話しているのかよく理解できなかった。
結局、柏木はネックレスの他にカジュアルなデザインの腕時計をひとつと、貯金の代わりかなと軽く言って千万円級の裸石を注文して会場を後にした。
上司と並んで柏木の後姿に頭を下げながら、中原は光を無くした目でただじっと自分の靴先を見ていた。
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眼下に視線を移せば、街はまるで模型のようで、蟻のように動いている人影だけがそこが現実の光景であることを示していた。
僕にはここは高すぎて、怖い。
高層ビルの最上階にある外商顧客専用サロンからの眺望に、中原悠司は軽いめまいを覚えて色白の眉間に軽く皺を寄せ、しなやかな細身の身体を窓から離した。
今日のサロンは特別な顧客を招いての特選宝石展の会場になっており、高価な衣服に身を包んだ一目で裕福だと分かる人々が、それぞれの外商担当者を従えて品定めをしていた。
会場内に入った控えめなアナウンスの中に自分の名前を認めて、中原は黒髪を翻して受付へと急いだ。
部長と談笑している長身の男の姿が目に飛び込んでくる。
おそらくイタリア製であろう少しあくの強いスーツを均整のとれた身体で見事に着こなし、若干33歳にして起業に成功した者のオーラともいうべき圧倒的な存在感を放っているその男は、中原の担当顧客である柏木晃彦だった。
柏木は中原の姿を認めると、形のいい唇の端を少し上げて彼だけに分かる笑みを送ってきた。
かっと身体の奥が熱くなるのを感じる。
この男の指を、舌を、そして男根を中原は身体で知り尽くしていた。
「わざわざお越しいただいてありがとうございます」
精一杯の平静を装って、中原は奥の窓際へと柏木を案内した。
高層ビルを支える太いコンクリートの柱が大きくフロアに張り出していて、その間がちょっとした個室のようなスペースになっており、顧客用にイタリアンデザイナーのモダンな応接セットが設えてあった。
柏木は足を組んでゆったりとソファに腰掛けると、窓の外に目をやった。
「いい眺めだね。僕はこの眺めが好きだな。とても落ち着く」
一面の空をバックにして寛ぐ柏木の姿は、まるで一枚の絵の様にしっくりとおさまっていた。
柏木さんのように常に上を目指す人にはここは相応しい所だなと、中原は心の中で独白した。
こんな人が何故、僕なんかを相手にするんだろう。
いつもの疑問がふっと頭を擡げる。
身体は彼に抱かれることにすっかり馴染んでしまっていたが、心は未だに柏木のことをどう位置付ければいいのか、分からないまま戸惑っていた。
隣接するレストランから取り寄せたハーブティを飲みながら、柏木が不意に窓の外を覗き込んだ。
「あれ、中原君。あれ何だろうね」
「は?どこですか」
中原は慌てて外に目を向けたが、柏木が何を指しているのかよく分からない。
「ほら、あれだよ。あれ」
中原が窓にくっついて懸命に下を見ていると、覆い被さるように柏木が身体を寄せてきた。中原の上着の下に手がするりと滑り込む。
「か、柏木さん」
「静かに。他のお客さんに見つかったら、君が困るだろう」
優しげな声で耳元に囁きながら、自分の身体で中原をガラスに押し付けるように固定すると、柏木の手はどんどん奥まで入ってきて中原の身体を這いまわった。
胸の敏感な小さな粒をワイシャツ越しに爪で引っかくように刺激されながら、下腹部に伸ばされたもう一方の掌で前の膨らみを包まれて、やわやわと柔らかく揉み解される。
柏木に触れられている所からじわじわ甘い疼きが湧いてきて、中原の身体の中を駆け巡った。
「……はぁっ」
とうとう押さえ切れない熱い吐息が、口から漏れた。
「……こんな所で、……お願いですから、止めてください……」
「君がいけないんだよ。ここしばらく、全然うちに来てくれなかったじゃないか」
柏木の唇が中原の耳朶を甘く噛んだ。
確かに柏木は上顧客だが、他に担当しているお客様を蔑ろにする訳にはいかない。だが一番の問題は、柏木の自宅に納品なり催事の案内なりに行くと、その後必ず寝室に連れ込まれ、足腰が立たなくなるまで攻められて、下手をすると次の朝まで帰してもらえないということだった。外商部の休日は顧客の都合で不定期とはいえ、柏木の所へ行くときには予め次の日に休日を設定しておかないと、とても体がもたなかった。
中原はガラスに貼り付けにされたまま、止まることの無い柏木の手に優しく、時に激しく愛撫され続けた。
圧倒的な高さの空間に押し付けられ、身体の中の官能を揺らされて、このまま落下してしまうような感覚に襲われる。
「……止めて、ください……怖い」
快感と落下の恐怖に挟まれて、中原は息も絶え絶えに懇願した。
「今日は必ず、僕の家においで」
柏木がまるで命令を下すように告げる。
中原は懸命にこくこくと頷いた。
切れ長の目をきらりと光らせると、柏木はようやく嬲っていた手を引いた。
すっかり熱くなってしまった身体はずるずると床に崩れ落ち、中原はガラスに頭を持たせかけるようにして荒くなった息を必死に整えた。
「さあ、少し展示物でも見てくるかな」
柏木は満足そうに笑った。
「中原君、案内してよ」
涼しい声が頭の上から降ってきた。
サロンの中央にはガラスケースが立体的にレイアウトされ、明るい照明が華麗な宝石や貴金属をますます華麗に光らせていた。
「今回は良質な物が多く揃っております」
宝飾担当の社員がすぐにカウンターの向こうから出てきて、トレーを持って柏木に付き従う。
柏木は、ざっとケースの中を見て、いくつかの裸石をピックアップした。
「……ちょっと、それも出して」
柏木は急に足を止め、ケースから大ぶりのネックレスを出させた。
蕩けるような黄金色が光を通している。琥珀だ。
宝飾担当者の説明を聞きながら、柏木はネックレスを手にとり、中の化石を透かすように照明にかざした。
「これ、気に入ったよ。大事な人にあげたいから、ラッピングして早めに自宅に届けて」
二人の後ろに控えていた中原は、先ほどの愛撫の余韻でまだ熱をもっていた身体が、頭のてっぺんからすうっと冷たくなっていくのを感じた。
大小様々な大きさの球体を組み合わせたネックレスはとてもデコラティブなデザインで、これを付けこなせるということは、よほど華やかな女性なんだろう。
きっと、柏木さんの隣に立つのに相応しい人だ。
何だか、足元がふらつく。
その後、場所をかえて商談に移ったが、柏木と宝飾担当者の会話がとても遠くから聞こえてくるような気がした。耳には入ってくるのだが、何を話しているのかよく理解できなかった。
結局、柏木はネックレスの他にカジュアルなデザインの腕時計をひとつと、貯金の代わりかなと軽く言って千万円級の裸石を注文して会場を後にした。
上司と並んで柏木の後姿に頭を下げながら、中原は光を無くした目でただじっと自分の靴先を見ていた。
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閉店時間がとうに過ぎオフィスの照明も落とされて、デスクの卓上灯だけが辺りを丸く照らしているなかで、中原は目の前に置かれた紙袋にもう何度目かも分からない視線を当てた。
紙袋の中身は宝石展会場から送られてきたラッピング済みの琥珀のネックレスで、これを今日中に柏木の自宅に納品に行かなくてはならない。
分かってはいるのだが、どうしても身体を動かすことが出来なかった。
どんよりと雲が立ち込めたような自分の重い心に押しつぶされそうになり、デスクの上で組んだ腕の中に中原は顔を埋めた。
不意にドアの開く音がして、中原の足元の床に廊下の照明がさっと射し込んできた。長方形の光の中に浮かび上がっている逆光のシルエットから、静かな声音が流れてくる。
「君は本当に、僕を煽るのが上手だね」
影は中原の方へつかつかと近づいて来た。中原は弾かれたように立ち上がり、後退った。
今は柏木と、まともに顔が合わせる自信がない。
咄嗟にデスクの上の紙袋を掴んで、深く頭を下げて柏木に差し出した。
「本日はお買い上げありがとうございました。お急ぎのところ、お届けするのが遅くなりまして申し訳ありません」
手から紙袋が荒々しくひったくられ、激しい紙の破れる音がしたかと思うと、中原の足元にリボンや包装紙がバラバラと落ちてきた。無残な箱の残骸に目を当てたまま、中原は尋ねた。
「……ラッピングがお気に召しませんでしたでしょうか」
「大いにお気に召さないね」
はっきりとした怒りの響きが柏木の声には籠っていた。
袋を差し出したままの格好で固まっていた中原の両手首を柏木の手が掴み、そのまま頭上に高く持ち上げた。長身の柏木に吊るし上げられ、中原の足は床からわずかに浮いた状態になる。身体が密着し、柏木の息遣いをすぐそこに感じた。
中原は必死に顔を横に背けた。
「君はまだ分かっていないようだね。君はもう、僕のものだっていうことを」
低く暗い声が耳のすぐ傍で響き、耳朶に歯が食い込んできて、食い千切られるかというほどぎりぎりと捻られる。
「い、痛い……」
「今夜はちょっと覚悟を決めておいた方がいいかもね。こんなに僕を怒らせたんだから」
柏木の怒りを含んだ低い声が耳の中に直接響いてくる。
ネックレスの納品が遅れたのが、そんなに悪いことだったんだろうか。
それともやはり、一刻も早くこのネックレスを大事な人とやらに渡したかったのだろうか。
身体に入っていた力がすうっと抜けた。
もう、僕なんてどうなってもいい。
「……どうとでもして下さい」
柏木の目に暗い嗜虐の炎が燈った。
「その言葉、後悔しないようにね。中原君」
言うなり柏木は、中原の頬を軽く噛んだ。
乾いた粘膜を擦って琥珀が後孔にぐりっと入れられるたび、中原の身体は激痛に貫かれた。押さえ切れない呻き声が口から漏れる。
臀部だけを剥き出しにされ胎児のように身体を丸めて、中原は彼自身のデスクの上に横倒しに載せられていた。
「まだ半分も飲み込んでいないよ」
柏木は患者を診察する医者のように中原の椅子に腰をかけ、目の前にある粘膜からはみ出した琥珀のネックレスを、人差し指で指でじゃらりと揺らした。
長い指がまたひとつ琥珀の珠を摘まみ、無情に中原の中に捻りこむ。
「……くっ」
自分の両手を戒めている目の前のベルトに噛み付いて、中原は呻き声を殺した。今までに幾度となく柏木を受け入れて柔らかく馴染んできた場所が、今はまるで処女を破瓜されるかように痛んだ。
こんな風に使われるなんて、このネックレスはもう彼女には不要になったんだろう。
まるで、今の僕みたいだ………。
中原の目から溢れた涙が、顔の横に小さな液溜りを作った。
「ほら、もう一個食べて」
直腸の中に冷たい石がぎちぎちと軋む中に、柏木は力任せに直径3センチはあろうかという最大の大玉を捻じ込んだ。後孔の襞がいっぱいに押し伸ばされる。
「……ぐうっ」
中原は今度は自分の親指を噛み、痛みを相殺しようとした。
もう限界だった。苦しい。内からの圧迫感で息すら満足に出来ない。
「お腹いっぱいになった?」
脂汗を浮かべて切れ切れの苦しげな呼吸をしている中原の頭を撫でながら、柏木が優しく聞いた。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
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紙袋の中身は宝石展会場から送られてきたラッピング済みの琥珀のネックレスで、これを今日中に柏木の自宅に納品に行かなくてはならない。
分かってはいるのだが、どうしても身体を動かすことが出来なかった。
どんよりと雲が立ち込めたような自分の重い心に押しつぶされそうになり、デスクの上で組んだ腕の中に中原は顔を埋めた。
不意にドアの開く音がして、中原の足元の床に廊下の照明がさっと射し込んできた。長方形の光の中に浮かび上がっている逆光のシルエットから、静かな声音が流れてくる。
「君は本当に、僕を煽るのが上手だね」
影は中原の方へつかつかと近づいて来た。中原は弾かれたように立ち上がり、後退った。
今は柏木と、まともに顔が合わせる自信がない。
咄嗟にデスクの上の紙袋を掴んで、深く頭を下げて柏木に差し出した。
「本日はお買い上げありがとうございました。お急ぎのところ、お届けするのが遅くなりまして申し訳ありません」
手から紙袋が荒々しくひったくられ、激しい紙の破れる音がしたかと思うと、中原の足元にリボンや包装紙がバラバラと落ちてきた。無残な箱の残骸に目を当てたまま、中原は尋ねた。
「……ラッピングがお気に召しませんでしたでしょうか」
「大いにお気に召さないね」
はっきりとした怒りの響きが柏木の声には籠っていた。
袋を差し出したままの格好で固まっていた中原の両手首を柏木の手が掴み、そのまま頭上に高く持ち上げた。長身の柏木に吊るし上げられ、中原の足は床からわずかに浮いた状態になる。身体が密着し、柏木の息遣いをすぐそこに感じた。
中原は必死に顔を横に背けた。
「君はまだ分かっていないようだね。君はもう、僕のものだっていうことを」
低く暗い声が耳のすぐ傍で響き、耳朶に歯が食い込んできて、食い千切られるかというほどぎりぎりと捻られる。
「い、痛い……」
「今夜はちょっと覚悟を決めておいた方がいいかもね。こんなに僕を怒らせたんだから」
柏木の怒りを含んだ低い声が耳の中に直接響いてくる。
ネックレスの納品が遅れたのが、そんなに悪いことだったんだろうか。
それともやはり、一刻も早くこのネックレスを大事な人とやらに渡したかったのだろうか。
身体に入っていた力がすうっと抜けた。
もう、僕なんてどうなってもいい。
「……どうとでもして下さい」
柏木の目に暗い嗜虐の炎が燈った。
「その言葉、後悔しないようにね。中原君」
言うなり柏木は、中原の頬を軽く噛んだ。
乾いた粘膜を擦って琥珀が後孔にぐりっと入れられるたび、中原の身体は激痛に貫かれた。押さえ切れない呻き声が口から漏れる。
臀部だけを剥き出しにされ胎児のように身体を丸めて、中原は彼自身のデスクの上に横倒しに載せられていた。
「まだ半分も飲み込んでいないよ」
柏木は患者を診察する医者のように中原の椅子に腰をかけ、目の前にある粘膜からはみ出した琥珀のネックレスを、人差し指で指でじゃらりと揺らした。
長い指がまたひとつ琥珀の珠を摘まみ、無情に中原の中に捻りこむ。
「……くっ」
自分の両手を戒めている目の前のベルトに噛み付いて、中原は呻き声を殺した。今までに幾度となく柏木を受け入れて柔らかく馴染んできた場所が、今はまるで処女を破瓜されるかように痛んだ。
こんな風に使われるなんて、このネックレスはもう彼女には不要になったんだろう。
まるで、今の僕みたいだ………。
中原の目から溢れた涙が、顔の横に小さな液溜りを作った。
「ほら、もう一個食べて」
直腸の中に冷たい石がぎちぎちと軋む中に、柏木は力任せに直径3センチはあろうかという最大の大玉を捻じ込んだ。後孔の襞がいっぱいに押し伸ばされる。
「……ぐうっ」
中原は今度は自分の親指を噛み、痛みを相殺しようとした。
もう限界だった。苦しい。内からの圧迫感で息すら満足に出来ない。
「お腹いっぱいになった?」
脂汗を浮かべて切れ切れの苦しげな呼吸をしている中原の頭を撫でながら、柏木が優しく聞いた。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
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