同じ店名があるなんて、後から思い返してみればまるで悪魔の計略だった。
「……ここ、ここ。この店、イケてる女が多いんだってよ。俺たちなら、どの女でもお持ち帰り放題だぜ」
頻繁に女を取り替えるモデル仲間は、整った、しかし軽薄そうな顔を自信たっぷりに歪めて笑うと、路上の小さな看板を指さした。
十代のまだ幼さの残る雰囲気を、夜の匂いのする毒々しい服で覆い隠した他のモデル仲間達が、にやにやと追従するように笑う。
新宿二丁目にほど近い、暗い路地の店だ。
ぽっかりと地面に開いた四角い空間に、地下への階段が細く続いている。
「さっさと入ろうぜ」
南島慎里は黒い鋲付きの革の服から髑髏のタトゥーを入れた腕を伸ばして隣の肩にまわした。
仲間とはいえ、つるんで夜を過ごすだけの乾いた関係だ。
親しげなその行動とは裏腹に、南島の瞳は暗く沈んでいた。
……また馬鹿騒ぎが始まる。
際限のない酒、頭に響く女の嬌声、今夜のセックスの相手を探る内容の無い嘘だらけの会話。
同じ化粧、同じような服装の誰だか区別がつかないような女と2時間ほどのセックスをし、果てのない空しさを抱えたまま眠る。
毎日が同じ事の繰り返しだ。
髪を染めて立て、伊達ワルといわれるホスト予備軍のような格好をし、読者モデルとしてファッション誌の紙面を飾っても、この空しさはまるでなくならない。
部屋に引きこもってようが、外で何人もの女と寝ようが、何も変わらない。
南島の鋭い目に、更に深く暗い影が差した。
階段の突き当たりにある重厚なドアの内側は、気怠げなジャズが流れる落ち着いた雰囲気のバーだった。
柔らかな間接照明がアンティーク家具をアクセントに使った店内で、ゆったりと酒を楽しむ人々を照らしている。
いい店なんだが、なにか妙だ。
女が一人もいない……。
「……おいっ!ここ、ホモのたまり場だぜっ」
先に入店していた仲間が軽薄な大声で叫んだ。
モデルの同性愛は珍しくもないが、こいつは徹底した女好きで、ゲイを生理的に嫌っていた。
びりっと空気が緊張した。
店の客が一斉にこっちを見る。
突き刺すような視線に晒されて、南島の肌はぴりぴりと痛んだ。
「うえっ、男同士でイチャついてるぜ。気持ちワリィ……」
顔は良くても頭は空っぽらしい少年はどこまでも鈍感に言いつのった。
これはやばいと南島が思う間もなく、客が何人か立ち上がりこっちへ近づいてくる。
「……ねえ、君たち、ずいぶん躾が悪い子達だよね」
「悪いけど、ここは君たちが来る所じゃないよ。出口はあちら」
客達の言葉は柔らかかったが、その目は剣呑な光を宿していた。
「うるせえ。女も抱けねえくせに、オカマが偉そうな口叩くな」
ここへ移動する前に飲んだ居酒屋のビールもまわっていたのだろう。怖い物知らずにも、少年はファイティングポーズをとって見せた。
突然ざばっと水が降ってきた。
「熱い馬鹿には、昔から水をぶっかけるのが一番ってね」
妙に愛想のいい太いフレームの眼鏡をかけた男が、空のデキャンターを片手に立っていた。
「……てめっ」
びしょ濡れの仲間が気色ばむ。
「お礼を言って欲しいくらいだな。このまま進むと、君たち袋だたきにあっちゃうよ。君の言うとおり、ここは男ばかりのバーなんだよ。きゃあきゃあ騒いで喧嘩を止めてくれる女の子なんて、いないのさ。まあ、君たちが女の子みたいに扱われちゃうかもしれないけどね」
男は眼鏡の奥の目を細めて、にっこりと笑った。
「さあ、どうする?」
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「……ここ、ここ。この店、イケてる女が多いんだってよ。俺たちなら、どの女でもお持ち帰り放題だぜ」
頻繁に女を取り替えるモデル仲間は、整った、しかし軽薄そうな顔を自信たっぷりに歪めて笑うと、路上の小さな看板を指さした。
十代のまだ幼さの残る雰囲気を、夜の匂いのする毒々しい服で覆い隠した他のモデル仲間達が、にやにやと追従するように笑う。
新宿二丁目にほど近い、暗い路地の店だ。
ぽっかりと地面に開いた四角い空間に、地下への階段が細く続いている。
「さっさと入ろうぜ」
南島慎里は黒い鋲付きの革の服から髑髏のタトゥーを入れた腕を伸ばして隣の肩にまわした。
仲間とはいえ、つるんで夜を過ごすだけの乾いた関係だ。
親しげなその行動とは裏腹に、南島の瞳は暗く沈んでいた。
……また馬鹿騒ぎが始まる。
際限のない酒、頭に響く女の嬌声、今夜のセックスの相手を探る内容の無い嘘だらけの会話。
同じ化粧、同じような服装の誰だか区別がつかないような女と2時間ほどのセックスをし、果てのない空しさを抱えたまま眠る。
毎日が同じ事の繰り返しだ。
髪を染めて立て、伊達ワルといわれるホスト予備軍のような格好をし、読者モデルとしてファッション誌の紙面を飾っても、この空しさはまるでなくならない。
部屋に引きこもってようが、外で何人もの女と寝ようが、何も変わらない。
南島の鋭い目に、更に深く暗い影が差した。
階段の突き当たりにある重厚なドアの内側は、気怠げなジャズが流れる落ち着いた雰囲気のバーだった。
柔らかな間接照明がアンティーク家具をアクセントに使った店内で、ゆったりと酒を楽しむ人々を照らしている。
いい店なんだが、なにか妙だ。
女が一人もいない……。
「……おいっ!ここ、ホモのたまり場だぜっ」
先に入店していた仲間が軽薄な大声で叫んだ。
モデルの同性愛は珍しくもないが、こいつは徹底した女好きで、ゲイを生理的に嫌っていた。
びりっと空気が緊張した。
店の客が一斉にこっちを見る。
突き刺すような視線に晒されて、南島の肌はぴりぴりと痛んだ。
「うえっ、男同士でイチャついてるぜ。気持ちワリィ……」
顔は良くても頭は空っぽらしい少年はどこまでも鈍感に言いつのった。
これはやばいと南島が思う間もなく、客が何人か立ち上がりこっちへ近づいてくる。
「……ねえ、君たち、ずいぶん躾が悪い子達だよね」
「悪いけど、ここは君たちが来る所じゃないよ。出口はあちら」
客達の言葉は柔らかかったが、その目は剣呑な光を宿していた。
「うるせえ。女も抱けねえくせに、オカマが偉そうな口叩くな」
ここへ移動する前に飲んだ居酒屋のビールもまわっていたのだろう。怖い物知らずにも、少年はファイティングポーズをとって見せた。
突然ざばっと水が降ってきた。
「熱い馬鹿には、昔から水をぶっかけるのが一番ってね」
妙に愛想のいい太いフレームの眼鏡をかけた男が、空のデキャンターを片手に立っていた。
「……てめっ」
びしょ濡れの仲間が気色ばむ。
「お礼を言って欲しいくらいだな。このまま進むと、君たち袋だたきにあっちゃうよ。君の言うとおり、ここは男ばかりのバーなんだよ。きゃあきゃあ騒いで喧嘩を止めてくれる女の子なんて、いないのさ。まあ、君たちが女の子みたいに扱われちゃうかもしれないけどね」
男は眼鏡の奥の目を細めて、にっこりと笑った。
「さあ、どうする?」
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あ、俺、こいつ大ッ嫌い。
南島は眼鏡の男を睨み付けた。
妙に朗らかで影がない。
きっと幸せな人生を送ってきたんだろう。
南島の胸に、むらむらと何かがこみ上げてきた。
気がつくと男の胸ぐらを掴みあげていた。
「薄汚いホモ野郎。糞のこびりついたケツ掘って悦んでんだろ。それとも、あんたが掘られて悦んでのかよ」
至近距離の眼鏡の向こうの目は、怯えるどころか面白そうに更に細められた。
かっと頭に血が上る。
目の前の男を殴りつけるために、南島はシルバーの指輪をはめた指をぎりっと握りしめた。
数刻の後、南島はガラスの散った床で気を失って倒れていた。
顔が赤く腫れ上がり、上着はどこかへ飛んでいって、下に着ていた黒いTシャツは酒でぐっしょりと濡れていた。
「この子どうする?」
黒い制服のバーテンダーは、足元に転がる南島を軽く足で突いて男に話しかけた。
「結構、綺麗な顔してるよね。お仲間がさっさと逃げた後も一人で暴れてたし、なんか面白そうだよな。お持ち帰りしちゃおうかな……」
少し皺になったビビットな柄のシャツに散ったガラス片を払いながら、男は眼鏡をかけた顔を綻ばせた。
「ゲテモノ好きだね。こんな狂犬、連れて帰ったらガブガブ噛まれちゃうぞ」
「俺の股間を噛ませてみたいね」
男は軽口を叩きながら屈み、ぐったりとした南島の身体を引き起こした。
「俺が壊したボトル分は、後で請求書あげておいてよ。じゃあね、おやすみ〜」
力の抜けた人形のような身体を軽々と背負うと、男はドアの向こうに消えた。
口の中がかっと熱くなり、喉を流れる液体が粘膜を焼いた。
注ぎ込まれた強いアルコールに、南島は激しく噎せた。
「……よしよし、気がついたか」
霞む視界のなかで、太いフレームの眼鏡が光っている。
「どれ、もう一口……」
顔が近づいてきて、唇が重ねられる。
口の中にまた、ブランデーが流し込まれる。
ごくりと飲み干してしまってから、南島は自分の状況に気付き唸り声を上げた。
「……なんだよ、これ……」
南島の両手首は鎖でぐるぐる巻きに戒められていた。
しかもこの鎖は、俺がアクセサリー代わりにボトムにつけていた奴じゃないか。
「外せ……っ」
膝裏に回された手首をがちゃがちゃと鳴らし、白いバスタブの底で胎児のように丸めた身体をくねらせた。
「ガラスまみれの身体を洗いたいんだけど、お前は暴れそうだからな。ちょっと貸してもらったよ」
「……ふざけるなっ」
南島は更にめちゃくちゃにもがいた。
「ほら、やっぱり暴れた。お前って野良猫みたいだな」
男は笑いながら、シャワーのコックをひねった。
頭上から大量のお湯が降ってきて、服を着たままの南島の身体を伝っていく。
「お前さ、かなりのお子様だろ。怖い物知らずな上に捨て鉢だもんなあ」
手を伸ばしてシャワーヘッドを掴むと、男は暴れる南島の身体に水流をかけて細かな破片を落とした。
「今日はたまたま助かったけど、下手すると肛門ががばがばになるまで掘られてたぜ。ホモを舐めない方がいいな。お前みたいな生意気な男の子を泣かせたいっていうSM趣味の奴も多いよ」
「……なんだ。結局あんた、俺に興味があるんだ。男のチンコが好きなんだよな。この変態……っ」
熱いシャワーに翻弄されながらも、南島は精一杯悪態をついた。
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南島は眼鏡の男を睨み付けた。
妙に朗らかで影がない。
きっと幸せな人生を送ってきたんだろう。
南島の胸に、むらむらと何かがこみ上げてきた。
気がつくと男の胸ぐらを掴みあげていた。
「薄汚いホモ野郎。糞のこびりついたケツ掘って悦んでんだろ。それとも、あんたが掘られて悦んでのかよ」
至近距離の眼鏡の向こうの目は、怯えるどころか面白そうに更に細められた。
かっと頭に血が上る。
目の前の男を殴りつけるために、南島はシルバーの指輪をはめた指をぎりっと握りしめた。
数刻の後、南島はガラスの散った床で気を失って倒れていた。
顔が赤く腫れ上がり、上着はどこかへ飛んでいって、下に着ていた黒いTシャツは酒でぐっしょりと濡れていた。
「この子どうする?」
黒い制服のバーテンダーは、足元に転がる南島を軽く足で突いて男に話しかけた。
「結構、綺麗な顔してるよね。お仲間がさっさと逃げた後も一人で暴れてたし、なんか面白そうだよな。お持ち帰りしちゃおうかな……」
少し皺になったビビットな柄のシャツに散ったガラス片を払いながら、男は眼鏡をかけた顔を綻ばせた。
「ゲテモノ好きだね。こんな狂犬、連れて帰ったらガブガブ噛まれちゃうぞ」
「俺の股間を噛ませてみたいね」
男は軽口を叩きながら屈み、ぐったりとした南島の身体を引き起こした。
「俺が壊したボトル分は、後で請求書あげておいてよ。じゃあね、おやすみ〜」
力の抜けた人形のような身体を軽々と背負うと、男はドアの向こうに消えた。
口の中がかっと熱くなり、喉を流れる液体が粘膜を焼いた。
注ぎ込まれた強いアルコールに、南島は激しく噎せた。
「……よしよし、気がついたか」
霞む視界のなかで、太いフレームの眼鏡が光っている。
「どれ、もう一口……」
顔が近づいてきて、唇が重ねられる。
口の中にまた、ブランデーが流し込まれる。
ごくりと飲み干してしまってから、南島は自分の状況に気付き唸り声を上げた。
「……なんだよ、これ……」
南島の両手首は鎖でぐるぐる巻きに戒められていた。
しかもこの鎖は、俺がアクセサリー代わりにボトムにつけていた奴じゃないか。
「外せ……っ」
膝裏に回された手首をがちゃがちゃと鳴らし、白いバスタブの底で胎児のように丸めた身体をくねらせた。
「ガラスまみれの身体を洗いたいんだけど、お前は暴れそうだからな。ちょっと貸してもらったよ」
「……ふざけるなっ」
南島は更にめちゃくちゃにもがいた。
「ほら、やっぱり暴れた。お前って野良猫みたいだな」
男は笑いながら、シャワーのコックをひねった。
頭上から大量のお湯が降ってきて、服を着たままの南島の身体を伝っていく。
「お前さ、かなりのお子様だろ。怖い物知らずな上に捨て鉢だもんなあ」
手を伸ばしてシャワーヘッドを掴むと、男は暴れる南島の身体に水流をかけて細かな破片を落とした。
「今日はたまたま助かったけど、下手すると肛門ががばがばになるまで掘られてたぜ。ホモを舐めない方がいいな。お前みたいな生意気な男の子を泣かせたいっていうSM趣味の奴も多いよ」
「……なんだ。結局あんた、俺に興味があるんだ。男のチンコが好きなんだよな。この変態……っ」
熱いシャワーに翻弄されながらも、南島は精一杯悪態をついた。
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